黒沢清監督が菅田将暉を主演に迎え、現代社会の闇を描いた映画「Cloud」。
転売ビジネスを題材に、ネット社会における集団心理の恐ろしさを描いた本作は、様々な解釈を呼ぶ作品です。
ここでは、七尾与史氏のレビューを参考にしながら、映画「Cloud」の考察を深めていきます。
考察① 転売行為と悪意の増幅
本作は、主人公・吉井(菅田将暉)の転売行為が、周囲の悪意を増幅させていく様を描いています。
吉井は当初、真面目に転売ビジネスに取り組んでいました。
しかし、商売が上手くいかなくなるにつれ、人気商品を買い占めて価格を釣り上げるという行為に走ります。
これは、現代社会における需要と供給のバランスを崩す行為であり、批判の対象となるのは当然と言えるでしょう。
七尾氏のレビューでも指摘されていたように、吉井の行為は単なる転売ではなく、バッタ屋、あるいは詐欺に近い行為とも言えます。
本来、転売とは、定価で手に入りにくい商品を、適正な価格で販売する行為です。
しかし、吉井は需要を操作することで利益を得ようとしており、倫理的に問題があると言わざるを得ません。
このような行為が、ネット上で憎悪の対象となり、吉井自身を追い詰めていく構図は、現代社会におけるネットリンチの問題を浮き彫りにしていると言えるでしょう。
考察② 不条理な展開と黒沢清監督の意図
本作は、黒沢清監督作品特有の不条理な展開が目立ちます。
七尾氏もレビューで指摘しているように、例えば、転売品を掴まされただけで自殺する人物の描写や、佐野という謎の人物の存在など、論理的に説明できない部分が多くあります。
このような不条理な展開は、観客に違和感や不快感を与える一方で、黒沢監督の意図を考察する余地を与えているとも言えるでしょう。
七尾氏は、本作を「雰囲気ホラー」と評しており、論理的な整合性よりも、観客の不安や不信感を煽ることを重視していると解釈できます。
初期の黒沢作品に見られた不条理な世界観への回帰とも言える本作は、観客に明確な答えを与えるのではなく、様々な解釈を促すことで、現代社会の混沌とした状況を描き出しているのではないでしょうか。
考察③ アカデミー賞日本代表作品としての評価
本作は、第97回アカデミー国際長編映画賞の日本代表作品に選出されました。
この選出に対して、七尾氏はレビューで疑問を呈しています。
確かに、本作は万人受けするエンターテイメント作品とは言えず、不条理な展開や後味の悪さなど、好みが分かれる要素が多くあります。
しかし、アカデミー賞は、単なる娯楽作品だけでなく、社会的なメッセージ性や芸術性の高い作品も評価する傾向があります。
本作は、ネット社会における集団心理の恐ろしさや、現代社会の病巣を鋭く描いており、そのメッセージ性は高く評価できるでしょう。
必ずしも多くの人に理解される作品ではないかもしれませんが、アカデミー賞という舞台で議論を呼ぶこと自体が、本作の意義の一つと言えるかもしれません。
まとめ
映画「Cloud」は、賛否両論を呼ぶ作品です。
不条理な展開や後味の悪さなど、観客を選ぶ要素はありますが、現代社会の闇を鋭く描いた作品として、考察する価値は十分にあります。
七尾氏のレビューにもあったように、初期の黒沢作品への原点回帰とも言える本作は、過去の作品を知るファンにとっては、また違った視点から楽しめるかもしれません。
本作を通して、ネット社会における自身の行動や心理について、改めて考えてみるきっかけになるのではないでしょうか。