映画「正体」の考察まとめ

映画「正体」は、第49回放置映画賞で作品賞、主演男優賞、助演女優賞を獲得した話題作です。
韓国映画を彷彿とさせる撮影手法や、テーマの奥深さが特徴的な一方で、ストーリー構成やリアリティに引っかかる点も見受けられました。
この記事では、映画「正体」における主要な考察ポイントを3つに分けて深掘りしていきます。

目次

考察① 韓国映画を彷彿とさせる演出の巧みさ

映画「正体」の大きな魅力の一つは、撮影手法やカメラワークに韓国映画の影響を感じられる点です。
監督である藤井道人氏は、韓国映画をリメイクした「最後まで行く」でもその演出力を高く評価されており、本作でもその手腕が発揮されています。

特に注目したいのは、冒頭の救急車から逃亡するシーンや、終盤のケアセンターでの一幕です。
これらのシーンでは、上空から俯瞰で捉えるショットが用いられており、緊張感を引き立てています。
この手法は韓国映画のサスペンス作品でよく見られるものであり、観る者を引き込む演出として効果的でした。

また、色彩の使い方にも工夫が見られました。
暗く重厚なトーンを基調にすることで、冤罪や人間不信というテーマをより深く感じさせています。
これらの演出は、観客にサスペンス映画特有の緊張感と没入感を与えることに成功していました。

考察② 登場人物のリアリティとキャスティング

本作で特に目を引いたのは、キャスト陣の圧巻の演技です。
主演の横浜流星は、体型や姿勢まで役に寄せる演技力を見せつけました。
元々演技力に定評のある俳優ですが、本作ではさらに一段階成長した印象を受けます。

また、森本慎太郎が演じた建設業に従事する男は、本作で最もリアリティを感じさせる存在でした。
彼の演技には、日常生活の延長にあるような自然さがあり、観客を物語に引き込む役割を果たしていました。

しかし一方で、吉岡里帆が演じた女性が成人男性を家に迎え入れる描写や、横浜流星がケアセンターで働くシーンなど、一部の設定に違和感が残ります。
特にケアセンターでの描写は、現実には就業時に必要な身分証明書や銀行口座の手続きが省略されているように見え、非現実的に感じられました。

考察③ ストーリーの緊張感と引っかかる点

映画全体を通して、緊張感のある展開が続き、観客の興味を引きつけることに成功しています。
特に終盤のライブ配信シーンでは、視聴者が映像を信じ込む危うさが描かれ、現代社会に対する鋭い風刺が込められていると感じました。

一方で、冤罪に焦点を当てた本作において、ストーリー展開にいくつかの問題点も見られました。
死刑囚が逃亡したにもかかわらず、捜査体制が非常に緩い描写や、物的証拠が不十分な状況で死刑判決が下るという設定には無理があります。

また、建設現場で見られる火傷の痕跡など、物語の伏線と思われる要素が十分に回収されないまま終わる点も惜しい部分です。
これらの要素は映画全体の完成度をやや損ねている印象を受けます。

まとめ

映画「正体」は、韓国映画を思わせる巧みな演出や、キャスト陣の迫真の演技が光る作品です。
しかし、リアリティの欠如や一部設定の不自然さが、作品への没入感をやや損なう結果となっていました。

人を信じることの危うさや冤罪の恐ろしさをテーマに据えた本作は、ヒューマンドラマとしても見応えがあります。
とはいえ、サスペンス映画としての完成度を高めるためには、刑事視点の構成やバッドエンドといった選択肢もあったのではないかと考えられます。
それでも本作が放つメッセージ性は強く、多くの観客に深い印象を与えたことでしょう。

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